教育

「新教育課程に関する校長・教員調査」「新教育課程に関する保護者調査」

小学校授業、国語では4割強、算数では3割弱で、授業進度に遅れ
2.5割の教員が「授業についていけない児童が増えた」と感じている

公開日:2012年02月15日
株式会社ベネッセコーポレーション(本社:岡山市)の社内シンクタンク「Benesse教育研究開発センター」では、新学習指導要領を全面的に導入し、教科書が新しくなった今年度の学校の取り組みや教員の学習指導の実態および意識を把握するため、2011年6~7月に、全国の公立小学校の校長および教員を対象に「新教育課程に関する校長・教員調査」を実施しました。また、2011年9~10月には、今年度の学校・授業に対する保護者の意識を把握するため、全国の公立小学校1年生~6年生の子どもをもつ母親を対象に「新教育課程に関する保護者調査」を実施しました。本報告はこれら2つの調査の主な結果をまとめたものです。
  1. 1学期の授業では、国語で4割強、算数で3割弱の教員が、進度に遅れがあると回答

    どの学年でも、約半数の学校が、国の定めている標準授業時数より多い時数を設定しているにも関わらず、1学期の授業が年間指導計画より「遅れている」とする教員は、国語で41.5%、算数で27.0%を占める。年間指導計画からの遅れがみられた原因には、「学習内容や教科書の分量が多い」(国語60.7%、算数57.6%)ことと合わせて、「児童間の学力差が大きい」(算数71.2%、国語47.3%)ことがあげられている。
  2. 授業の遅れに対しては授業内での対応を予定。また「長期休業中の学習指導」実施は5割を超える

    授業の遅れに対しては、「全体的に授業の進度を速める」「重点を置く単元を設ける」などの授業内での対応が予定されている。また、54.7%の学校が「長期休業中の学習指導の実施」を予定している。
  3. 「授業についていけない児童」が「増えた」2.5割、「児童間の学力格差」が「大きくなった」4割

    教員は、移行措置期間も含めた児童の変化として、「授業についていけない児童」の増加(「増えた」26.3%)、「疲れている児童」の増加(「増えた」39.3%)、「児童間の学力格差」の拡大(「大きくなった」40.1%)などを感じている。思考力・判断力・表現力等にかかわる児童の変化としては、「分かりやすく伝えたり、説明できる児童」「感じたことを表現できる児童」などの増加を感じている教員もいるが3割弱にとどまり、全ての項目で、「変わらない」という教員が6~8割台存在した。
  4. 「活用」の時間の確保への不安は、各教科で6~8割を占める

    教員が授業において多くするように特に心がけている指導は、算数の「習得」が78.8%、国語の「習得」が60.3%のほか、算数における「活用」が45.7%、国語における「言語活動」が58.2%となっている。一方、「活用」の学習時間の確保や、「習得」「活用」を関連させて思考力・判断力・表現力等を育成することへの不安を、各教科で6~8割の教員が抱えている。「教材研究・教材準備の時間が十分にとれない」という悩みを抱える教員は9割を超える(「とてもそう思う」+「まあそう思う」の合計)。
  5. 4分の3以上の保護者は、学校の教育・指導に満足している

    新教育課程について、授業時数の増加は88.6%、学習内容の増加は87.0%の保護者が認知しているが、思考力・判断力・表現力等の育成の重視(学習内容の質的変化)を認知している保護者は58.7%とやや低い(「よく知っている」+「まあ知っている」の合計)。
    今年度1学期の学校の教育・指導に対する総合的な満足度は76.9%である。「基礎的な知識を習得させる」こと(78.9%)、「見学や実物にふれるなどの体験をさせる」こと(67.9%)への満足度は比較的高く、「考える力や判断する力を伸ばす」こと(54.6%)などへの満足度はやや低い(「とても満足している」+「まあ満足している」の合計)。
  6. 小学校の学習量については「今くらいがいい」と66.5%の保護者が回答

    現在の小学校の学習内容の量に対して、「今くらいがいい」と考える保護者が66.5%を占めている。「今よりも増やしたほうがいい」と考える保護者は28.6%である。
教育課程の改訂により学習内容が増加し、「活用」「探究」、言語活動などへの取り組みも必要とされるなか、6~7月の調査では、授業進度に遅れがみられました。その対応として単元の重点化や授業速度を速めた場合には、学習の深まりが不十分になったり、児童間の学力格差が拡大したりなどの影響が出る場合があります。学校・教員には、新学習指導要領の理念に基づいた指導方法の転換など、学習の量・質を確保する取り組みが求められるでしょう。

一方で、小学校は、授業時数確保の努力を行い、実際に授業時数を増やしていることから、教材研究・教材準備の時間が十分にとれないなど教員の多忙化も続いています。新教育課程実施初期にあたるこの時期こそ、地域の学校の優れた実践の共有や、若手教員を中心にした研修、事務処理の簡略化など、国・教育委員会による学校の実態を踏まえた制度面・実践面での支援が必要でしょう。

保護者の側としては、学習内容の増加などの量的な変化は認知しており、「習得」の学習への満足度は比較的高いですが、思考力・判断力・表現力等の育成など質的な変化への認知や満足度はやや低くなっています。授業のスピードが速いなどの状況を感じている保護者もいます。学校と保護者の間での共通理解をより深めながら、子どもの学びを支えていくことが必要だと思われます。

※上記の調査の詳細はこちらよりご覧ください。

http://benesse.jp/berd/center/open/report/syo_shinkatei/2011/index.html

最終更新日:2020年03月09日