COOメッセージ

業績の回復とその先の持続的な成長を実現する
企業文化と仕組みづくりに全力を注ぎます

代表取締役社長 COO小林 仁

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、多くの方が不安を感じ、さまざまな制約を受けながら生活する状況が現在も続いています。新型コロナウイルス感染症に罹患された方々やそのご家族の皆さまにお見舞い申し上げますとともに、不幸にも亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。また、この前例のない災禍に敢然と立ち向かい、医療現場で治療に尽力している方々や、さまざまな社会インフラの維持に奮闘されている方々に感謝の意を表したいと思います。

新社長就任にあたり目指す姿大きな変化のなか、経営と現場が一体となり価値をつくる

新型コロナウイルスの拡大とそれによる社会の変化をはじめとし、世の中が非常に速いスピードで変化しており、1年先も見通すのが難しい時代になっています。

このようななか、ベネッセホールディングスは事業環境の大きな変化に迅速に対応し、事業変革のさらなるスピードアップを図るとともに、グループ全体のシナジーを拡大するために、2021年4月から新体制に移行し、私が代表取締役COOに就任しました。

新社長として私がとくに意識しているのは「現場との距離がない経営」です。お客さまの環境や困りごとも、このコロナ禍で急速に変わっています。このような変化の大きい時代にあっては、お客さまと接する最前線の現場の感覚が非常に重要です。さまざまな現場の声や最前線の情報を経営に素早く反映させ、目まぐるしい変化にタイムリーかつ柔軟に対応できる組織をつくっていきたいと考えています。

約35年前の入社以来、私はベネッセグループの各部門でさまざまな仕事を経験してきました。そのなかで、いつも肌で感じてきたのは、どの事業現場も「目の前にいるお客さまのお役に立ちたい」という真摯な気持ちにあふれていることでした。一人ひとりの「よく生きる」を支援する、という企業理念そのものを社員一人ひとりが深く考え実践していること。これこそが、当社グループの最大の強みであると私は考えています。事業を取り巻く環境が大きく変化しつつある今こそ、課題意識やチャレンジへの強い意志を、経営と社員が共有しながら前進していこうと思います。

2020年度の総括コロナ禍の厳しい状況のなかでも新たな取り組みを進めた1年

2020年度はグループ全体がコロナ禍という大きな変化に見舞われました。しかし、進研ゼミ事業は、コロナの影響による休校で自宅学習ニーズが高まったことで4月の新規入会数が増加し、さらに教材のいっそうのデジタル化により活用率が上がり、継続率※も向上したことから年間を通して好調に推移しました。一方で、学校事業や塾事業、介護事業などリアルな現場を持つ事業は、コロナ禍の影響で事業活動が制約を受け、その結果2020年度の連結業績は売上高4,275億円(前年度比4.7%減)、営業利益130億円(同38.4%減)、経常利益92億円(同44.7%減)、親会社株主に帰属する当期純利益31億円(同50.3%減)の減収減益となりました。

このような厳しい状況下ではありましたが、お客さまの困りごとに寄りそい、コロナ禍で安心・安全に事業を行うための体制整備を各事業で推進してきました。例えば進研ゼミやこどもちゃれんじでは「目の前で困っているお客さまのお役に立ちたい」という社員の強い思いが原動力となり、学校や幼稚園・保育園が休校・休園となった2020年の3月以降、「春の総復習ドリル」や「全国実力診断テスト」の無償配布、こどもちゃれんじの「オンライン幼稚園」の実施など、新しい活動をスピード感を持って展開してきました。また、休校下でも子どもたちの学びを止めることがないよう、進研ゼミではタブレットを活用したオンラインライブ授業をスタートさせるなど、「デジタル+人の指導」の進化が進んだ1年でもありました。グループの学習塾では、感染防止を徹底するとともに、オンライン授業や映像配信によるサービスを用意し、コロナ禍が拡大するなかでも安心して学びを続けられる体制を整備しました。

※ 4月の会員者が翌年3月に会員として継続する割合

新中期経営計画の推進2030年の世界を見据え、まず2年でV字回復、3年で新たなフェーズへ

当社グループは、2018年度から5カ年の中期経営計画を策定し、構造改革を推進してきました。ベルリッツのリストラクチャリングや進研ゼミのデジタル化など、各事業での改革を進めるとともに、事業ポートフォリオを見直して選択と集中を進め、ノンコア事業の売却や成長領域への投資を加速してきました。これらにより、業績は回復に向かったものの、国の教育・入試改革の見直しをはじめ、市場環境の変化が大きく、計画との乖離が発生しました。さらに2020年には新型コロナウイルスの流行で、学校、塾、介護施設、ベルリッツなどリアルな現場を持つ事業が大きな影響を受けました。

この事業環境の激変を受け、当社は前中期経営計画を見直し、新中期経営計画FY2021-2025「コア事業の進化と新領域への挑戦」を発表し、推進することとしました。

営業利益

新中期経営計画の策定にあたっては、今後の社会や事業環境の変化を見据え、2030年の目指す姿(ビジョン)を描きました。これからの日本社会は、少子化・高齢化、労働力不足といった構造的問題がさらに深刻化していきます。そのなかで教育・介護のリーディングカンパニーである当社グループが果たす役割はいっそう大きくなるでしょう。そこで私たちは「日本・世界が直面する教育・介護の課題にどこよりも真摯に取り組み、すべての人が向上意欲を持ち、自分らしく挑戦し続けられる人生を支援する」企業グループになることを2030年の目標に掲げました。

この目標実現に向けた直近5カ年の成長プランである新中計では、大きく二つのフェーズで成長戦略を進めていきます。最初の2年間はフェーズ1として、オーガニックな成長を基本に売上高・営業利益を2019年度レベルまでV字回復させます。さらに2023年度からの3年間はフェーズ2とし、オーガニック成長に加えて、インオーガニックな成長を目指します。フェーズ1・2のいずれにおいてもコアになるのは既存事業の領域です。また二つのフェーズを通して当社グループの強みを活かせる新領域での事業拡大も図っていきます。計数計画としては、2023~2025年度の既存事業における売上高年平均成長率3%以上、最終2025年度の営業利益率8%以上、ROE 10%以上を掲げています。

2021年度以降の事業戦略既存事業の進化と新領域への挑戦で成長を目指す

2021年度は中期経営計画のスタートの年であり、業績のV字回復に向けた重要な年です。当社グループは2022年度に2019年度を上回る営業利益の達成を目指しており、2019年度の営業利益212億円に対して、2022年度は260億円を目標としています。

教育事業では、学校事業や塾・教室事業においてコロナの影響からの回復がすでに進んでいます。進研ゼミでは、「デジタル+人」による教育サービスのさらなる進化を図るとともに、累計300万台を提供している進研ゼミの学習用タブレット機をプラットフォームとして活用することで習い事やキャリア教育など多様化する学びのニーズに対応する、新たな講座の開発を進めています。Kids&Family事業では、妊娠・出産・育児の強力なブランドである「たまひよ」と幼児向け講座であるこどもちゃれんじの組織を2021年度から統合しており、各商品・サービスを連携させたアプリなどによって顧客接点を拡大し、家庭・親向けも含めた周辺事業の開発を進めます。

介護事業では、入居者の視点に立ったホーム運営を基本に、採用戦略と連動したエリア拡大と新規ホーム開設を進めていきます。同時に25年を超える実践知を科学的アプローチで体系化した「ベネッセメソッド」のさらなる進化や、ベネッセ版センシングホームの開発などを通じて特色のあるホームづくりにも取り組みます。中期的には人材紹介事業など周辺領域事業も拡大し、成長を目指していきます。

ベルリッツに関しては、2022年度の黒字化を目指し計画を進行中ですが、達成可能性を早期に見極めて、今後の方向性を2021年度中に遅滞なく判断します。

一方、新領域への挑戦としては、今後の成長が見込まれ、当社グループの強みが活かせる領域での新たな事業に積極的にチャレンジしていく方針です。Udemyを中心とした大学・社会人向けサービスでは新たな収益モデルを構築・拡大するとともに、コア事業の周辺領域を中心に海外での事業展開に向けた現地調査を進行しています。

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中長期的な成長に向けて組織・事業の枠を越えてグループ一体の取り組みに注力

グループ全体でのDX推進

新中計を実現していくうえで大きな鍵を握るのが、各事業におけるデジタル化の加速とグループ社員のデジタルスキルの向上です。教育や介護の分野における当社グループの豊富な知見や資産を、DXをうまく活用して新たな価値に転換していくことで、さらに高い価値と競争力を生み出していくことができると考えています。教育事業ではこの5年間にDXが大きく進化し、2021年6月には経済産業省と東京証券取引所から「DX銘柄2021」にも選ばれましたが、グループ全体ではさらにデジタルスキルの強化が必要な段階だと捉えています。
こうした認識のもと、2021年4月に「DIP(Digital InnovationPartners)」というグループ横断型の新組織を設け、デジタル、IT、デジタル人財育成、DXコンサルの機能を統合しました。今後はこのDIPが各事業のデジタルシフトをサポートしつつグループ全体のデジタル化を加速していく方針であり、すでに各部門との連携によるデジタル推進が始まっています。同時に全社のデジタル人財育成も強化しています。

教育・介護領域で高い知見を持つ社員のデジタルスキルを高めていくことで、お客さまへの提供価値の向上と事業成長を実現していきます。

学びと挑戦を支援する風土づくり

現在、グループ全体でDXをはじめとする「ラーニングカルチャー」、すなわち社員自身が学び続けられる風土を広げていこうと取り組んでいます。事業の枠を越えて、ある事業部門が積み上げてきたノウハウを別の事業部門が学ぶなど、さまざまな学び合いができる仕組みと風土をつくり上げていきます。また「挑戦」を推進する仕組みも新たに構築しました。先に述べたように、当社グループの大きな強みは理念の実現に向けた現場の社員一人ひとりの情熱と使命感にあります。この強みを今まで以上に経営に活かしていくために、2021年度から「B-STAGE」と名付けた新たな提案制度を導入しました。これは「新規事業」と「業務改革」のそれぞれについて、当社グループの全社員から新企画やアイデアを募るものです。福武書店の時代には「拝啓社長殿」という社長あてに手紙を書く制度があり、当時の社長は年間約2,000通寄せられる社員たちの手紙を読み込んで経営のヒントとしていました。このDNAを受け継ぎ、B-STAGEを恒常的なシステムとして経営に組み込むことで、それぞれのお客さまに向き合う現場の真摯な声を事業や経営に活かし、競争力強化を図っていきたいと考えています。

さらに、グループ横断的な活動として「子どもの未来に寄り添うプロジェクト」も開始しています。同プロジェクトはベネッセコーポレーションから公募で選ばれた約80名のメンバーが、社会のあり方が大きく変わると予想されるなかで、未来の子どもたちのためにどんな教育を提供すべきか、何ができるかについて立場を越えて議論していくプロジェクト活動であり、既存の事業内容や収益性にとらわれない自由な発想を新しい展開につなげていこうと思います。

コーポレート部門/経営会議の改革

大きな変化のなか、コーポレート部門も、今まで以上に「ベネッセグループをどのようにしたいのか」という目指す姿に向かって動いていく必要があると考えています。目指す姿を実現するためには、それぞれの機能を突き詰めていくだけではなく、事業会社を含めたコーポレート部門の幹部が横断的に事業の取り組みを深いレベルで理解し、これに対して何ができるのかを考え、機能と機能を連携させて新しい動きを生んでいくことが重要です。このような観点から、2021年4月より「コーポレート本部長横断会議」という会議体を新たに設置しました。人事や総務、経理・財務、法務、広報・IRなど専門機能を持つスタッフが一堂に会し、グループ横断的に議論することで、課題意識の共有とともに各機能の融合や深化につなげていきます。

当社の経営層や事業会社のカンパニー責任者、コーポレート部門の責任者などで構成する経営会議についても、これまでの「情報共有」の場から「グループ全体の課題を幹部全員で議論」する場へと位置付けを変えました。これにより全員が意識を一つにしてグループ横断的な活動をダイナミックに進めていきます。

ベネッセの理念とサステナビリティ顧客価値・社会価値・経済価値の循環によって持続的成長を実現

ベネッセは「Benesse=よく生きる」を企業理念に掲げ、教育や介護における社会課題の解決に取り組んできました。当社グループにとって「サステナビリティ」は決して新たな概念ではなく、これまでの価値観や事業での実践と非常に重なるものであると捉えています。

私たちは「顧客価値」「社会価値」「経済価値」という三つの価値の循環を通して、企業価値向上を目指していきます。「顧客価値」と「社会価値」の向上に真剣に取り組むことで「経済価値」が向上するはずです。この三つの価値のサイクルを、幹部や社員と意識をともにしながら企業活動に落とし込むことが経営者として最も重要な仕事だと捉えています。

例えば収益性だけ、投資効率だけを考えるなら、介護事業をやめた方がいいという考え方もあるかもしれません。一方で介護は、社会的な必要性や価値がものすごく高い事業です。社会にとって、お客さまにとって、従業員にとって一番良いバランスで、社会の持続性に貢献するとともに、会社が持続的に成長していくという状態をつくることが、私の大きな使命です。

現在、これまで策定してきたサステナビリティビジョンや中期経営計画に基づき、非財務指標を明らかにしていく議論も進めています。

三つの価値の循環

三つの価値の循環

ステークホルダーへのメッセージ「理念ドリブン」の経営による価値創造を

お客さま一人ひとりの成長や学び、自分らしい生き方を支援する私たちの仕事において、私たちが判断の拠り所とすべきは、「Benesse=よく生きる」という企業理念、そして目の前にいるお客さまのお役に立ちたいという「顧客中心」の価値観です。私はベネッセを「理念ドリブン」の企業だと思っています。

理念ドリブンを貫くことは、たやすくはありません。追い風に乗って事業が順調に拡大している時はつい原点を忘れがちになります。逆に事業環境が厳しいと目先の利益に目がいき、自分たちの存在意義に目を向ける余裕がなくなります。だからこそ経営者は、たとえ「同じことばかり繰り返している」と言われようとも、理念の大切さを叫び続けねばならないのだと私は考えています。

社会が大きく変化し続けるなか、これからも私たちベネッセグループは、「理念」を軸として、すべての現場と経営が一体となって新たな試みに挑戦し、持続的成長を目指します。ステークホルダーの皆さまには、引き続きご理解、ご支援をお願い申し上げます。

最終更新日:2021年9月30日