マネジメントメッセージ

事業の変革を突き進めて、
10年先、20年先も
成長し続ける企業へ
代表取締役社長
安達 保

2018年度の業績と成果

事業環境の変化に対応した展開で各分野が着実に伸長

5カ年の中期経営計画「変革と成長 Benesse2022」の初年度となった2018年度、ベネッセグループの連結売上高は4,394億円(前期比1.1%増)と、2期連続で増収となりました。数字だけを見れば微増ですが、前期の(株)TMJ売却により同社の売上高(前期126億円)が減少しており、その分を他の事業の伸びが吸収したうえでの増収であることをご理解いただきたいと思います。

利益面では、営業利益は162億円(同28.7%増)、経常利益は121億円(同31.3%増)といずれも増益でした。純利益については49億円(同60.5%減)となりましたが、減少幅が大きくなった主な要因は前期に特別利益として計上した(株)TMJ株式の売却益が剥落したことによるものです。

各セグメントの前年比推移

2018年度を振り返り、私は「成果」と「課題」の両面が明確になった1年だったと捉えています。早急に対策を講じるべき「課題」に関しては後述しますが、各事業分野とも市場や事業環境の変化に対応した施策を推進したことで、グループ全体の業績は着実に成長していると評価しています。

当社グループの主力市場となる国内の教育市場では、2020年度からの教育・入試改革を控え、英語4技能(「聞く、読む、話す、書く」)の重視や、小学校における英語学習の早期化、プログラミング教育の必修化への関心の高まりなど、さまざまな動きが広がっています。一方では、スマートフォンやタブレットを活用したデジタル学習の急速な拡大とともに市場での競争が激化しています。

そうしたなか、国内教育事業では英語4技能に対応した「GTEC」の採用拡大をはじめ、顧客視点に立った商品・サービスを積極的に展開し、中核事業の進研ゼミ事業や学校事業を伸長させることができました。エリア・教室事業でも、東京個別指導学院や鉄緑会が、業界におけるポジションをより確固たるものにしています。また、学校教育の現場でICT活用が進展していることを受け、学校向け学習支援プラットフォーム「Classi」の提供拡大を図るべく、2019年1月に校務支援システムに強みを持つ(株)EDUCOMをグループに加えました。

もう一つの柱でありベネッセスタイルケアが展開する介護・保育事業も、超高齢社会となり介護サービスへのニーズがますます高まるなか、高齢者向けホーム数・住宅数の着実な拡大と入居率の向上によって順調に業績を伸ばすことができました。ただし、介護業界では人材不足が大きな課題となっており、ベネッセスタイルケアも例外ではありません。同社では2017年から進めてきた処遇改善などにより人材を安定的に確保していましたが、昨年度後半に一部のスタッフの退職率が増加してしまったことも事実です。2019年度は新たな教育プログラムを計画しており、引き続きご入居者さまにしっかりとサービスを提供できる体制を整えていきます。

「進研ゼミ」会員数

テーマ 変革と成長 Bemesse2022(2018年度~2022年度)

中期経営計画の概要はこちらのページをご参照ください。

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さらなる成長に向けた課題への対策

リーダーシップを発揮し、3つの課題に取り組む

前述の「成果」の一方で、「課題」があることも認識しています。そのなかで早急に対処すべき大きな課題は以下の3点であり、リーダーシップを発揮して改革を推し進めていきます。

進研ゼミ事業の立て直し

一つ目の課題は、進研ゼミ事業の立て直しです。同事業は2014年に発生した個人情報漏えいによる大幅会員減からの下げ止まりを果たし、回復に転じています。2019年度も商品強化策として「英語4技能習熟度別トレーニング」を投入しましたが、基礎から大学入試レベルまで学年を越えて個人の実力に合わせて学べる点がお客さまから高評価を得ています。ただし、会員数の回復は、当初想定したペースでは進んでいません。2019年4月時点の在籍数は前年同期比5万人増の262万人にとどまり、目標数の274万人には届きませんでした。

最大の問題は、新規会員獲得にかけた販売費と入会者数を対比した時に、想定したよりも販売効率が低くなっていることです。中期経営計画では2020年に「会員数300万人」の達成を目標に掲げましたが、このまま300万人を目指して販売費用をかけ続ければ利益が相当に傷むことが予想されます。

そこで「会員数成長」から「利益成長」の戦略へ、方針を転換することを決めました。今後は新規会員の拡大のみを追うのではなく、継続を重視し、非効率な新規販売を抑制することで安定した在籍成長を目指します。

進研ゼミについては、事業モデル自体の見直しも喫緊の課題であると認識しています。ベネッセという企業を象徴する事業ですが、近年市場環境やお客さまの求める価値が急速に変化し、競合他社の存在感も高まってきています。少子化が継続して「大学全入時代」に突入しても、高みを目指してとことん勉強に取り組むお子さんと、そうでないお子さんの二極化が私たちの想定以上に進んでいます。紙・デジタルそれぞれの特性を活かして、一人ひとりのお子さんに合わせたアプローチが必要になっています。この変化を踏まえると、従来のやり方の延長では対応できないという強い危機意識があり、中長期での成長を目指して今こそ大改革に着手します。

2年半前に私が社長に就任した時は、まず原点に戻り、自社の強みを活かした展開をもう一度しっかりとやろうと考えました。しかし、今足元に差し迫っている大きなうねりを乗り越えるには、新たな強みの創造が必要になると強く感じています。商品や販売方法を抜本的に改革し、事業モデルそのものの刷新を進めていきたいと考えています。

中国でのこどもちゃれんじ事業の再成長

中国で展開しているこどもちゃれんじ事業の再成長も大きな課題です。2018年度も、中国における在籍数は引き続き増加しましたが、対前年度20%前後で在籍数を拡大していた数年前の状況に比べると成長ペースは鈍化しています。この一つの要因は、サービス提供地域の拡大が止まったことですが、それだけではなく商品リニューアルの遅れも大きな要因だと分析しています。

中国では、幼少期からの「試験のための勉強(応試教育)」が過熱していることへの反動から、「子どものさまざまな素質や人間性を育てようとする教育(素質教育)」の重要性が見直されています。ベネッセは、日本と同様に「しまじろう(中国名:巧虎<チャオフー>)」を活用した素質教育を中心に展開しており、確かな評価を得てきましたが、一方で教育熱心層のニーズを満たすことも必要だと考えています。日本で蓄積してきたノウハウやデジタル技術も活用して、応試教育・素質教育両面を訴求する教材を開発し、こどもちゃれんじの新たな強みをつくり上げていきます。

すでに昨年度から再成長に向けた改革に着手し、月齢版(7カ月~35カ月向け講座)の商品の全面リニューアルを完了させるとともに、ECチャネルの取り組みを強化しました。この結果、2019年4月の月齢版の会員数は対前年度で6.6%増加、継続率も6.1%増加しました。今後については、中期的な成長を見据えて中国での事業モデルを抜本的に再構築していくため、改革は2段階で進めていく方針です。

第1段階として、今後2年間かけ、市場変化に対応した商品改訂をやりきる予定です。教育熱心層のニーズに対応できる商品・サービスの開発や、ブランドの活性化による顧客接点の拡大、さらなるECチャネルの拡大を進めていきます。2021年度以降は第2段階の改革として、変化が激しい中国市場の特性に合わせ、入園後のお子さん向け講座を抜本的に改訂していきます。

中国の教育熱心層の、日本以上に強烈なニーズをしっかり把握し、応えていくことで成長を再び加速させていきます。それはある意味で進研ゼミの改革よりも急を要するテーマであると捉えています。

中国「こどもちゃれんじ」事業の今後の戦略

ベルリッツ事業の改革

もう一つは、ベルリッツ事業の改革です。2018年度のベルリッツ事業の売上高は前期比4%の減収、営業損益はマイナス47億円と赤字幅が拡大しました。減収の主要因は語学サービス事業(BTS)でのレッスン数減少と、留学支援事業(ELS)での生徒数減少であり、減益の理由としては減収に加えてリストラ費用の増加もあります。リストラによる改善効果は当然期待できますが、まだ顕在化には至っていない状況です。

ベルリッツにおいては「コスト構造の改革」と「商品・業務変革」が喫緊の課題であると考えています。順調に事業拡大している日本以外の市場でさまざまな課題があるため、全く新しい会社に脱皮すべく、一大構造改革を進めています。

商品・サービスの面では、「ベルリッツ2.0」という全社的な改革プロジェクトのなかで新たなプログラムの開発を進めています。これは従来の教室での対面によるレッスンにオンラインレッスンやeラーニングサービスを、ベルリッツの指導要領に基づいた最新のデジタル教材と有機的に組み合わせて提供する全く新しいスタイルの語学プログラムです。スマートフォンやPCで全世界の生徒と講師を結ぶことで、あらゆる場所で、あらゆる時間に、同社の高品質な語学プログラムを受講可能にします。

こうした高品質サービスをグローバルに提供しているプレイヤーは未だ世界に存在せず、成功すればベルリッツ事業のトップラインが再び大きく伸びると期待しています。現在は地域ごとにソフトローンチしており、今年末には全地域で本格的にサービスを開始する予定です。

ベルリッツ事業の改革では、商品だけでなく社員の意識改革も重要です。この5月に米国のベルリッツ本部で現場スタッフと会合しましたが、現在の担当者たちのモチベーションは非常に高く、意欲を肌で感じました。マーケティングについても、デジタル技術で先行する先端企業でデジタルマーケティングを担当していた非常に優秀な人材を確保しており、すでにいろいろな成果が出始めています。

上記3つの課題に対して、本格的な「変革」を成功させることが、今後のベネッセの成長を維持するための必須条件であり、「2019年は『変革の年』にする」と社内にもことあるごとに発信しています。

中長期視点での成長

「総合力」を活かして、新しい教育の形を創出する

ベネッセグループが中長期的に成長していくためには、主力事業である国内教育事業の拡大が不可欠です。日本の教育が大きく変わるなかで、新しい需要に対応した新しいサービスを各分野で提供していくことが求められますが、これは既存事業の延長だけで実現できることではないと認識しています。ベネッセの強みである「総合力」をフルに活用しながら、中長期の未来を見据えた、新しい教育の形を今からつくり上げていく必要があります。

その方向性の一つは「英語4技能の育成」です。すでに進研ゼミ事業、学校事業で「英語4技能習熟度別トレーニング」の取り入れを進めており、エリア・教室事業でも英語4技能に関するカリキュラムを展開しています。そうした意味で英語4技能には、事業部横断的なインパクトがあります。

また、デジタルデータを活用した新事業にも、大きな可能性があります。これは幅広い顧客基盤を持つベネッセの保有データを活かす取り組みです。

社会人や企業の分野での教育をサポートしていく方向性もあります。少子高齢化が進むなか、社会人の教育・学習ニーズに対するアプローチを拡大していきます。この分野もすでに一部でサービスを提供していますが、米国Udemy社と共同で個人向けに展開しているオンライン教育事業をベースに、市場性が高い法人向けカリキュラムをつくり提供を拡大していくことを検討しています。

新たな事業の創出に向けた横断的プロジェクトも推進中です。例えば、「これからの学び(これまな)プロジェクト」では、次世代校外学習サービスの構築を検討していますし、「STEAM教育商品の開発」といったテーマでの研究も始めています。

このような多岐にわたる取り組みを可能にしているのが、家庭学習から小中高校や塾、さらには大学、社会人まで、幅広い領域に教育事業を展開できるベネッセの総合力です。

非財務資本の強化

培った知見・ノウハウにデジタルを融合させる

ベネッセの最大の強みであり、成長の源泉は「人財力」です。現場の社員たちと思いを共有していくために、私は各事業部門を定期的に訪問して語り合うラウンドテーブルの活動を続けていますが、学校事業のメンバーたちと対話すると「日本のこれからの教育はどうあるべきか?」「教育の目標をどうやって現場で具体化していくのか?」といったテーマを、本当に真剣に語ってくれます。介護や保育の現場でも同様です。子どもたちのために、高齢者のために、日本の未来のために、何をすべきか、何ができるのか――彼らは日々自らに問い続けているのだ、と実感します。この志の高さが、ベネッセの強さの源です。そして、これがあるからこそ、教育や介護の現場で高品質のサービスが提供できるのです。

ただし、今後の持続的成長を考えた時、教育や介護の現場で蓄積した知見やノウハウだけでは十分とは言えません。そこには例えばデジタルとの掛け合わせ、いわゆるデジタルトランスフォーメーションも重要になってきます。私は現在のベネッセグループの全戦略、全事業においてそれを意識すべきだと考えており、「デジタルがわからなければ、この会社は生き残れない」と社内に強く発信しています。

そうした意味で、当社グループが今最も求めているのは、教育や介護などに関する知見・ノウハウはもちろん、高い志を持ち、かつデジタルスキルを備えた人材です。 昨年1月に新設したグループデジタル本部を中心に、ベネッセの理念を体現する社員たちに、デジタルにも強くなってもらうための教育を開始しています。このやり方は少し時間がかかるかもしれません。しかし、安易に外部に頼るよりも「真にベネッセに必要な“人財”」を、確実に増やしていけると考えています。

また、人材の確保がとくに困難になっている介護分野については、スタッフが高いモチベーションを持って活躍し続けられる仕組みの構築を考えています。具体的に言うと、介護領域におけるノウハウの結晶とも言える「ベネッセメソッド」に関する社内資格を設けて専門職化し、スキル向上に対して報酬を払う仕組みを構築してサービスのレベルアップと同時に定着率の向上を図っていきます。

人材についてはもう一つ、当社グループの未来を担うリーダー育成も重要なテーマです。昨年スタートした次世代リーダーの育成プロジェクトでは、各部門から次世代幹部候補者を毎年20名程度選抜してリーダー力を養成する研修を実施しています。また、これも昨年開始した「ベネッセユニバーシティ」も継続しており、若手社員を対象に育成プログラムを実施しています。

さらに非財務面の大きな取り組みとして、当社グループは2019年1月に「サステナビリティビジョン」を策定しました。この目的は、当社グループがSDGsに代表されるさまざまな社会課題の解決を真正面から志向する企業であることを、社内外に改めて明示することにありました。教育も、介護も社会課題に直結した事業であり、その拡大自体が社会課題の解決につながります。その意味で、ベネッセはサステナビリティ活動の先駆者とも言えます。同ビジョンに基づく活動を主導する組織としてサステナビリティ推進委員会も設置しており、今後は全社にビジョンの浸透を図るとともに、具体的な重点活動項目の明確化も進めていきます。現場からの提案を促進すると同時に、2030年の目標、「あるべき姿」からのバックキャスティングによって、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を明確にしていこうと考えています。

ステークホルダーへのメッセージ

緊張感と危機感を持って将来を見据えた変革に挑む

2018年度は、中期経営計画のスタート時には想定していなかったいくつかの事象が起き、2019年度の営業利益目標を50億円下げ、200億円としました。まずはこの目標をしっかりと達成し、次に向けてチャレンジしていこうと考えています。

そのチャレンジのためにも、明らかになった課題に対しては確実に対策を打ち、思い切った変革に取り組んでいきます。そして、2年後、3年後の新たな事業の基礎を築き、この先10年、20年と続くベネッセの未来をつくっていきたいと考えています。

これまで述べてきたように2019年度はベネッセにとって「変革の年」です。良い意味での緊張感と強い危機感を持ち、この変革を突き進めてまいります。

最終更新日:2019年09月11日