CEOメッセージ

理念をベースに、
新たな成長のステージに向け
挑戦を続けていきます

代表取締役社長 CEO 小林 仁

代表取締役社長 CEO 小林 仁

激変する環境のなかで不変の理念を実践する

ベネッセグループが掲げる企業理念「Benesse(よく生きる)」とは、夢や理想の実現に向かって歩み続けるお客さま一人ひとりに寄りそい、その成長や課題の解決を生涯にわたって応援していくことです。それは私たちが時代を超えてずっと大切にし、追求し続けてきた不変の経営哲学だといってもいいでしょう。
一方で、当社グループが事業を展開する教育や生活、介護などの市場はつねに変化を続けています。過去10年を見ても様変わりしており、今後、変化のスピードはさらに加速すると予想されます。他の事業領域においても、お客さまを取り巻く社会・経済的な環境や、お客さまの抱える困りごとの内容は、継続する新型コロナウイルス感染症拡大の影響なども相まって、大きく変化しています。
このように激しく変わり続ける世界の中で、不変の理念であるBenesseを実践していくには、進行中の変化の中身をしっかりと捉え5年後、10年後の状況を予測し、未来のお客さまの課題や困りごと、要望を洞察して、期待に応える商品・サービスを開発・提供していく姿勢が重要です。それはすなわち社会環境や事業環境の変化に応じて、自分たちもまた変わっていかねばならないということです。
こうした状況に直面しても進む方向を見誤ることなく、つねにお客さまの期待に応える価値を提供していくには、私たちの「存在意義」や「判断の拠り所」を明確にする必要があります。それらの根本はもちろんBenesseですが、普遍性が非常に高い理念のため、具体的な成長戦略や日常業務の行動原則とは少し距離があります。そこで当社グループでは、2年ほど前から各組織レベルで明確な言葉として「パーパス(存在意義)」を定め、その実践に取り組んでいます。

パーパスを中心に3つの価値を循環させサステナブルな社会の実現に貢献する

今やビジネスの世界でも「サステナビリティ(持続可能性)」が大きなキーワードになってきていますが、当社グループにとってこれは別段新しいものではなく、自分たちが大切にしてきた価値観や実践そのものであると私は捉えています。
1955年の創業以来、当社グループは教育や介護といった重要な社会課題の解決に一貫して取り組んでおり、SDGsの目指す「well-being」は企業理念であるBenesseと軌を一にするものです。そうした意味でサステナビリティは、当社グループの経営の中核に位置付けられていると私は考えています。私たちが目指すのは「社会価値」「顧客価値」「経済価値」という3つの価値の循環を通して長期的に企業価値を向上させ続けていくことです。社会のさまざまな課題の解決に貢献する「社会価値」を生み出していくとともに、お客さまの期待に応える商品・サービスを提供し「顧客価値」を創出していく。それらを通して利益を創出し、自社の「経済価値」も高めていく。
パーパスを中心に、この3つの価値のサイクルを企業活動として具体化していくことが、経営者としての重要な使命だと認識しています。
そのような経営方針に基づいて各事業で具体的な取り組みを推進していくために、2022年4月にはベネッセホールディングス内に「ESG・サステナビリティ推進本部」を新設しました。サステナビリティへの取り組み姿勢を社内外により明確に提示するために、あえて独立した本部として編成しました。同本部が中心となり当社グループのさまざまな施策や取り組みをサステナビリティの観点から改めて検証し、より社会課題に貢献できるよう取り組みを深めていきたいと考えています。

3つの価値

3つの価値

コロナ禍による落ち込みから急速に業績を回復

2021年度は中期経営計画の初年度でした。中計では、コロナ禍の影響で前年度に落ち込んだ業績をまずは早期にV字回復させ、さらにもう一段階「上」へ飛躍することを目指して、5年間を2つのフェーズに分けて推進しています。
2021年度を振り返ると、売上高は4,319億円で微増にとどまったものの、営業利益は前期比54.1%増の201億円と、予想を大きく上回るペースで回復が進みました。なかでも国内教育事業が1年間で2019年度実績を超えるまでにV字回復できたことは、非常に大きな成果だと捉えています。もう一つの大きな成果は、この数年来の経営課題であったベルリッツ事業を売却できたことで、これにより「事業の集中と選択」を大きく前進させることができました。この2つの成果によって、中計のフェーズ1は非常に順調なスタートが切れたと評価しています。
介護事業では入居率が低下しましたが、これはオミクロン株拡大によるコロナ禍の継続で潜在顧客が入居に慎重になったことが主な要因であり、事業継続のためご入居者やスタッフの感染防止を最優先にしたことの結果です。需要に対して供給が不足する介護市場の状況に変わりはなく、当社グループの施設やサービスに対する市場の評価は非常に高いことから、コロナ禍が落ち着けば業績は必ず回復してくると確信しています。2022年度の業績見通しは、売上高4,260億円とベルリッツ事業の売り上げが剥落したことにより1.4%の減収となりますが、営業利益は国内教育事業の収益の向上とベルリッツの赤字がなくなることで250億円と24.0%の増益を見込んでいます。

既存事業の成長と新領域の拡大で中計フェーズ2以降の飛躍を目指す

中計においては2025年度までに営業利益率を8%以上、ROEを10%以上とする目標を掲げています。このうちROEについては、2021年度はベルリッツ事業の売却にともなう特別損失が影響し、0.7%と低い水準でしたが、事業の伸長とベルリッツ売却に伴う税金削減効果により、2年前倒しした2023年度に10%以上の達成を目指します。
中長期的な成長戦略の中心は既存事業領域でのオーガニック成長ですが、並行してM&Aなども含めたインオーガニックな成長戦略を推進します。これらとともに、新領域での事業創出・拡大によってさらなる飛躍を目指しています。
2025年度の売上高は5,000億円、営業利益は400億円を目指しており、これらに向けた2023年度から2025年度のインオーガニック・新領域の成長寄与度は20%以上と想定しています。
また、すべての事業領域においては、オーガニック/インオーガニックにかかわらず、DX(デジタルトランスフォーメーション)が成長の非常に重要な鍵を握っています。2021年4月に設置したグループ横断組織「Digital Innovation Partners(DIP)」を中心に各事業のDX推進を強力にサポートしていく考えです。

中期経営計画の目標(2020年11月発表)

中期経営計画の目標(2020年11月発表)

2025年度の財務KPIのアップデート(2022年5月発表)

2025年度の財務KPIのアップデート(2022年5月発表)

新たな事業領域として大学・社会人事業の拡大に注力

新領域の開拓では、とくに大学・社会人の教育市場を重視しています。今、持続的成長を目指す多くの企業が「社員のリスキル(能力転換)」に注力していますが、このことを個人の側から見れば、社会人になっても新たな能力を獲得し、自分の可能性を広げることが必要な時代になっているということです。そうした人々を応援し、ニーズを満たすサービスを開発・提供していくことは、単にビジネスチャンスをつかむというだけでなく、社会課題の解決に寄与する取り組みであると考えています。
この領域では、すでに世界最大級のオンライン学習プラットフォーム「Udemy」を日本での事業パートナーとして展開していますが、そこにとどまらず、大学生や就職後の社会人のさまざまな学びや自己実現をサポートする多様なサービスを提供していきたいと考えています。事業拡大に向けては、M&Aも視野に入れた積極的な投資を行っていく方針です。
こうした新領域での拡大戦略をより強力に進めていくために、組織体制も改編し、これまでベネッセコーポレーションの学校カンパニー内において大学・社会人向けサービスの開発などを担当していた事業部門を「大学・社会人カンパニー」として独立させました。今はまだ小さなカンパニーですが、成長率は全カンパニーのなかで一番になると期待しており、大学・社会人事業で2025年度までに400億円、将来的には1,000億円規模の売り上げを実現したいと思っています。
新領域では、このほか海外事業の拡大にも引き続き注力していきます。現中計期間は、国内で圧倒的な優位性を持つアセスメント事業の海外展開を進める方針で、2022年度はインドで有償アセスメント事業のテストを開始しました。併せて中国での介護事業についてもスキームの検討を行っています。

2025年度に向けた重点テーマ

2025年度に向けた重点テーマ

ラーニングカルチャーを活かした社員一人ひとりのリスキルを推進

中期経営計画の実現に向けた非財務面の取り組みでは、引き続き「人財」が最大のテーマになります。なかでもデジタル技術に長けた「DX人財」の強化は、すべての事業領域でますます重要課題になっていると認識しています。あらゆる業界でDX人財が強く求められているため、採用市場でも優秀な人財の獲得は非常に難しくなっています。ただし、私は単純にデジタルに強いエンジニアを集めれば、良いサービスができるわけではないと思っています。
Benesseの理念に基づいた高い価値を創出していくためには、高度なデジタル技術だけでなく、教育に対する信念、子どもたちへの愛情、あるいはお年寄りへのいたわりの心といった要素が不可欠です。その観点からいえば、これまで当社グループの価値ある事業をつくり込んできてくれた社員たちが新たなスキルを身に付け、お客さまに新しい形でサービスを提供していくことが理想であり、会社としてそこに絶対に注力していくべきだと考えています。
日本政府のGIGAスクール構想もあって、教育界でも今デジタル化が急速に進行しています。会社全体としては、私たちもかなり以前からサービスのデジタル化を進めていますが、例えば教育事業において競争力の高い教材を生み出し続けていこうとすれば、現場レベルでも紙編集で培ってきたノウハウとは全く異なる知見が必要になってきます。
介護事業も同様です。介護サービスの基本はもちろん「人」ですが、サービスの質をさらに高めていくにはデジタルの活用が鍵になります。当社グループでは、2022年3月に東京・四谷にセンシングホーム「グランダ四谷」を開設しました。各種センサーを通じてご入居者のお身体の状態を可視化し、データを介護の匠である「マジ神」が分析してケアを見直しています。そのデータとノウハウを取り入れ開発を進めているのが「マジ神AI」です。AIによってスタッフのスキルアップを図り、ご入居者のさらなるQOL向上を目指していきます。
DX推進に向けた「リスキル」の必要性は、社員自身も認識しているはずですし、会社としてもそのための機会や手段をできる限り準備・提供していく考えです。幸いなことに、当社グループには長年培われた自律的に学ぶ文化、ラーニングカルチャーが根付いています。この企業文化を最大限に活かしながら、社員一人ひとりの新たな能力開発を応援していきたいと思っています。

チャレンジの歴史を再確認し、新たな価値の創造へ

当社グループは2022年4月に、理念継承の一環として「BATON」という本をまとめました。この目的は、ベネッセという企業が辿ってきた「チャレンジの歴史」を、改めてグループ全体で再確認していくことにあります。
当社グループのこれからの成長には「イノベーション」が絶対に求められます。ベネッセは、これまでもイノベーションを何度も起こしてきた企業です。現在のベネッセの事業ポートフォリオは、整理されたセットとして天から降ってきたわけでは無論ありません。私たちにもベンチャーの時代が当然ありましたし、それぞれの事業領域でさまざまな試行錯誤をしながら「理念」を「形」にするプロセスを踏んで新しいビジネスモデルを一つひとつ構築してきました。それが例えば介護事業であり、直島での取り組みなのです。
「BATON」では、Benesseという企業理念の制定を起点に、社員たちがどんなふうに悩み苦しみながらイノベーションに挑戦して、新しいものを生み出してきたかを、当事者たちが過去を振り返る形で綴っています。今後はこの書籍に登場した社員に全社員の前に出てもらい、語り合えるような場も設けていきたいと考えています。
これは伝説を語り継ぎたいとか、過去の栄光を追いかけたいということでは決してありません。事業環境の激しい変化に直面しているなかで、自分たちが「理念」をベースに変革に挑戦してきたことを、自分たちにはそれができることを、再確認してほしいと思っています。そして、これからも彼らと一緒にさまざまなことにチャレンジして、イノベーションを起こし、お客さまへの新たな価値創造を目指していこうと思います。

最終更新日:2022年09月05日