特集 教育事業の価値創造

教育改革に向けて
そして、その先の未来へ
代表取締役副社長
株式会社ベネッセコーポレーション 代表取締役社長
小林 仁

ベネッセの“存在意義”を問い直し3つのフェーズで成長戦略を推進する

私たちベネッセグループがこれからも持続的な成長を実現していくには、グループの中核である教育事業の変革が不可欠です。今、日本の教育を取り巻く状況は急速に変化しています。少子化・全入時代のなかで競争倍率の高い高校や大学を志向する層とそうでない層の二極化が進む一方、AIやIoTといったデジタルの波が、教育の世界にも急激に押し寄せています。

当社はこれまで「教育のベネッセ」として日本の教育産業をリードしてきましたが、このような事業環境の大きな変化が続くなかで、従来提供してきた商品やサービスだけでは高い顧客満足を得ることはますます難しくなっていくだろうと認識しています。

ベネッセのDNAには、目の前にいるお客さまの「よく生きる」を、真剣に考えようとする姿勢があると私は思っています。このDNAを今一度活性化して、「お客さまに対して何をすべきか? 何ができるのか?」を改めて問い直し、自分たちの存在意義を再定義していくことで、本当の意味でお客さまに満足してもらえる商品・サービスの創造につなげていきたいと考えています。そして、それを起点に、3つのフェーズで教育事業の成長戦略を推進していきます。

ベースとなる「第1フェーズ」は既存事業の強化です。進研ゼミにおける個人情報漏えいからのダメージ回復、エリア・教室における「クラスベネッセ」の新展開、学校における進研模試の強化など、各事業の傷んだ部分やより特長を出すべき部分の強化に引き続き取り組んでいきます。「第2フェーズ」では、2020年から始まる教育・入試改革という大きな環境変化を成長機会と捉え、ベネッセの総合力を活かした競争力の高い商品・サービスや事業展開によって新市場でのポジション確立を目指します。さらに「第3フェーズ」として、2024年のさらに“その先”に自分たちが何を目指していくのか、成長ビジョンや新たな成長領域、事業のあり方などに関しても検討を進めていきます。

教育生活事業 中長期戦略

Phase1中期経営計画1年目で鮮明になった既存事業の成果と課題を踏まえて

2018年度は「第1フェーズ」において、いくつかの成果を上げることができました。その一つは学校事業における英語4技能(「聞く、読む、話す、書く」)検定「GTEC」の受検者数が順調に拡大したことです。これは教育・入試改革に備えた“仕込み”という意味でも評価しています。また、進研ゼミの強化策の一つとして開始した「クラスベネッセ」の教室数が業績をともなって拡大したことで、同事業の今後の展開に関する見極めもできました。

一方で、主力の進研ゼミは、想定したほど成長させることはできませんでした。この結果を踏まえて、2019年度からは基本戦略を転換します。今後は「新規会員獲得」に過大なコストをかけるのではなく、「在籍数」、すなわち現在受講してくださっているお客さまの満足度を今以上に向上させることで、「利益成長」を図っていきます。

進研ゼミの強化策として「デジタル化」も当然進めます。当社は紙とデジタルの両方の教材を手がけていますが、近年は学年が上がるにつれてデジタルの選択比率が高まる傾向にあります。

デジタル学習の利点は「個別対応」ができる点です。タブレットの電源をいつ入れて、どの問題を、どのくらいの時間で解いたか。あるいは、どこで間違えたか――など、デジタルなら何百万人の受講者がいても一人ひとりの細かな学習履歴を分析し、各々のレベルに応じた出題や最適なナビゲーションが行えます。

今デジタル教材の世界には競合の参入が相次いでいますが、当社には圧倒的なアセット、知見・ノウハウがあります。保有問題数や顧客情報と連携した学習履歴データの量なども圧倒的に多く、これらをもとにAIを駆使して個別性の高いサービスを実現していくことが進むべき道の一つだと考えています。

ただし、子どもの学習は、デジタルだけでは完結しません。そこでは優しく背中を押したり、見守ったりしてくれる「人」の存在が重要です。この面でも当社は赤ペン先生やゼミサポーター(進研ゼミの後輩をサポートする進研ゼミの卒業生)など人が介在する事業を長年展開してきた強みがあり、培った経験知をデジタル展開と融合させていくことで、競合他社には真似のできないサービスを生み出していきます。

Phase2教育・入試改革に向けて横断プロジェクトで総合力を発揮

「第2フェーズ」における大きな取り組みは、英語4技能に対応した新しい商品・サービスの開発です。一定のポジションを確立している学校事業分野にとどまらず、進研ゼミやエリア・教室などの校外学習事業の分野にも活かしていくことで、英語4技能の競争力を高めていきたいと考えています。

すでに各カンパニーにおいて英語4技能は、成長の柱となりつつあります。例えば進研ゼミでは、この2019年4月から、学年を越えた「英語4技能習熟度別トレーニング」をリリースしています。また、エリア・教室カンパニーでも、学習指導要領に沿った学校向けプログラム「OST(オンラインスピーキングトレーニング)」を応用し、塾や予備校にオンラインの英語スピーキング対策講座「EST(イングリッシュスピーキングトレーニング)」を展開しており、これは他社の塾へも提供しています。

このテーマに全社的に取り組んでいくために、2018年には国内教育を横断する「英語4技能商品開発本部」を設置しましたが、これは一つの事例に過ぎません。新たな価値創造に向けて、各部門が蓄積してきた知見・ノウハウを有機的につなぐ複数のプロジェクトを推進しており、子どもたちのより多面的な評価を可能にする仕組みの開発など、他のテーマについての取り組みも加速していきます。

また、こうした取り組みと両輪で、ベネッセの「存在意義」をグループの社員に伝えるインナーブランディング活動も進めています。新たな価値創造には、社員一人ひとりが理念やビジョンを深く理解し、共感を持つことが不可欠だからです。社員に当社の存在意義を言語化して、わかりやすい「物語」として伝えることで、社員の振る舞いや考えが変わり、新たな価値創造につながる。新たな商品・サービスがお客さまの共感を生み、ブランド力も高まる。そして、その評価が社内に伝わり、次のストーリーが紡がれていく――新たな価値を創造し続ける企業グループを目指して、グループすべての社員に理念やビジョンの浸透を図っていきます。

英語4技能商品化スキーム

Phase3ポスト2024年を見据え子どもたちの“よく生きる”に寄りそう

「第3フェーズ」に関しても「ビジョンワークショップ」という場を設け、各カンパニーのリーダーや代表を中心に横断的な検討を開始します。

ベネッセが目指す教育の姿は、子どもたちの学びに対するモチベーションを高め、自学自習の力を身に付けてもらうことです。それはデジタル化・AI化で多くの仕事が淘汰される社会で大人になっていく彼らが自分らしく生きていく力を育むことでもあり、持続可能な社会の実現にもつながってくることだと思います。そのためにベネッセに何ができるのか、同ワークショップでは、ポスト2024の新事業についても議論していきます。

新しい事業開発への取り組み

  • 1. STEAM教育
  • 2. リカレント教育
  • 3. 障がい者教育
  • 4. グローバル教育(アジアの学力向上)

例えば、テクノロジーの進化によって社会の仕組みが変化するなかで注目を集める「STEAM教育(科学、数学、芸術領域に力を入れる教育方針)」については、5年後、10年後の子どもたちに最適な学びの形は何かを考えながら、カリキュラムの研究を進めています。また、「リカレント教育」や「障がい者教育」に関しても、最適な学びを提供できる方法を検討していきます。さらに、アジア地域など海外の子どもたちの未来に貢献していくことも重要テーマであり、今後も日本の初等・中等教育の進んだ部分を取り入れたサービスを展開して、世界で活躍したいと願う子どもたちの力になりたいと考えています。

ベネッセは、妊娠、出産、育児といった「生活領域」でのビジネスも長年展開しています。その意味で、当社は人生のスタート時からお客さまの成長に寄りそっているとも言えるでしょう。未来の世界では、一人のお子さんについて、その幼児期から大学に入学するまでのすべての段階の学びや思考のデータを活用することで、そのお子さんが社会に出た時に、たくましく生きていけるよう支援できるかもしれません。当社は、これからもお客さまに寄りそい、それぞれの「よく生きる」を応援することで、自分たちも成長していきたいと考えています。

最終更新日:2019年09月11日