CFOメッセージ

投資と財務の安定性のバランスをとりながら、
グループの成長を支えていく

執行役員 CFO 兼 財務・経理本部長坪井 伸介

成長と安定のバランスを考えた資金配分

私は1999年にベネッセコーポレーションの財務部にキャリア採用で入社し、約20年間にわたり財務畑を歩んできました。この間、財務部門に求められる役割は時代によって変化しましたが、教育や介護といった社会的重要性の高い事業を財務面から支えていくという使命はずっと一貫していたと思います。

現状における当社グループの大きな課題は、新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んだ業績の早期回復です。2021年4月から開始した新中期経営計画に沿って、まずは2019年度の利益水準までV字回復させたうえで、さらなる利益成長を目指します。基本となるのは既存事業の強化によるオーガニックな成長ですが、培った強みを活かして新領域や海外展開にも挑戦していきます。同時に成長の基盤となる財務体質の強化も図ります。財務の責任者として、成長投資と財務の安定性のバランスを考えながら、資金配分や投資回収の舵取りに努めていきます。

2020年度業績の振り返り

コロナ禍の拡大によって、それまで進めてきた各事業の成長プランは修正を余儀なくされました。緊急事態宣言下における学校休校の影響により進研ゼミ事業は伸長したものの、学校事業や教室事業、介護事業などリアルな“場”に依存する各事業は非常に厳しい状況となり、全体では減収、大幅減益となりました。しかしながら、いずれの事業も市場ニーズそのものは下がっておらず、当社グループの商品・サービスに対する顧客満足度はもともと高いことから、コロナ禍が収束すれば各事業の業績は回復していくと予想しています。

なお課題のベルリッツ事業は、過去数年の構造改革により損益分岐点を大幅に引き下げて収益が改善しつつありましたが、残念ながらコロナ禍で大幅な減収、減益となりました。足元の売上の回復はゆるやかではありますが、大規模なリストラクチャリングにより収益性は改善しており、コロナの影響が落ち着けば2022年度に黒字化が達成できる計画です。ただし、回復の時期・スピードには不確定要素も多く、2022年度中に黒字化の目処が立たないと判断した場合は、ためらわず別の方策を断行する考えです。

DXによる既存事業の強化と新領域への挑戦

既存事業については、2019年度水準へのV字回復から、さらに“その先”を目指した投資戦略を進めていきます。中核となる教育領域での投資の大きなポイントは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。教材のデジタル化を進めてきた進研ゼミ事業の伸びは、この流れが不可避であることを示しており取り組みを加速していきます。デジタルの利点はお客さまによりフィット感を高めた教材をタイムリーにお届けできることに加え、双方向性が高まること、さらにタブレットをプラットフォームにして新商品・サービスをどんどん載せていけることにあります。クロスセルや高付加価値サービスの追加で収益拡大を図れるほか、より効率的・効果的なマーケティングも可能になります。社員のデジタル運用能力の向上などにも積極的に投資し、中長期的な成長を支える事業基盤を強化していきます。

ここ数年、当社グループは成長に必要な資金の確保に向けて、事業の選択と集中も進めてきました。グループのコールセンター企業や通訳・翻訳企業を売却した一方、教育領域ではEDUCOMやスタディハッカー、介護領域ではプロトメディカルケアなどをグループに加えるとともに、社会人教育に強みを持つ米国Udemyに出資しました。

今後は、これら既存事業の成長を前提に、当社グループの知見とノウハウが活かせシナジーが見込める新領域や、国内事業の海外展開をターゲットに投資を進めていく計画です。各事業部門やIT部門と連携して情報を収集し、財務的ストラクチャーも勘案しながら、投資対象とその手段を検討していきます。

収益性と資本効率の向上

財務面のKPIでは、売上高成長率、営業利益率とともにROEを重視しており、新中期経営計画では「2025年度にROE10%以上」を目標に掲げました。2020年度におけるROEの実績は1.8%、2021年度予想は3%ですが、計画どおりの利益水準を達成できれば2022年度には7%台に高まると想定しています。また、2020年度からROICを社内指標として導入し、事業ごとの収益性を厳しくチェックしています。今後はM&Aに際してもROICによって投資効率を判断していく方針です。

ただしROICは事業ごとに異なります。例えば介護事業は収益が安定している一方で、進研ゼミ事業や学校事業に比べるとROICが低い傾向にあります。しかし、当社グループは事業の社会的な存在意義も重視しており、ROICの数値のみで評価はしていません。介護事業も比較的ハイエンド層を中心に展開しており、施設事業以外の人材紹介事業など周辺事業を拡大していくことで全体の資本効率向上に努めています。

財務規律の維持とキャッシュの積み上げ

2020年度末時点の現金及び現金同等物は約1,500億円ですが、一方で教育事業に関わる前受金、介護事業の長期入居一時金など、お客さまからの「預かり金」の合計が約1,400億円あり、この部分は事業投資やリスク投資には充当しない方針です。これに資産サイドにある未収金500億円強や季節的な残高の変動も考慮して、現状では約400~500億円程度をリスク投資への待機資金と位置付けています。また、CAPEXについては、現状は減価償却費とほぼ同水準ですが、DX化の進展で増加傾向にあります。安定的な事業運営のためにはCAPEXの水準と投資効率の管理強化が必要だと考えています。

今後もまずは営業利益の拡大によってフリーキャッシュフローを積み上げるとともに、既存事業の運営に必要となる資金を勘案しながら、デジタル投資や事業投資を進めていきます。あわせて、CAPEXやM&Aなどにおける投資回収の確度を高め、財務戦略も強化しながら、フリーキャッシュフローの拡大と財務基盤の強化を図っていきます。

株主の皆さまへ

株主の皆さまへの配当については、将来の成長に備えた内部留保を確保しつつ、利益拡大によって配当額を高めていくことを基本方針として、配当性向35%以上をめどに実施しています。一方で配当の水準も意識しており、2020年度の配当は安定配当の観点から1株当たり50円の配当を実施いたしました。引き続き当社グループへのご支援をよろしくお願いいたします。

最終更新日:2021年9月30日