社外取締役対談

取締役会の実効性を
さらに高めて
持続的な成長の実現を

(左)取締役会長 岩田 眞二郎

プロフィールを見る

1972年(株)日立製作所入社、Hitachi Data Systems Corporation CEO、Hitachi Global Storage Technologies, Inc.エグゼクティブバイスプレジデント、(株)日立製作所代表執行役 執行役副社長などを歴任。2014年より当社社外取締役。現在は当社会長、取締役会議長を務める。

閉じる

(右)社外取締役 安田 隆二

プロフィールを見る

1979年マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社後、同社ディレクター、A.T.カーニー アジア総代表などを経て、2004年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。2015年一橋大学大学院国際企業戦略研究科(現経営管理研究科国際企業戦略専攻)特任教授ならびに当社社外取締役に就任。

閉じる

社外取締役との対話の機会を増やし取締役会の実効性を向上

岩田
私が当社の社外取締役に就任した2014年頃と比べると、取締役会の運営やそこでの議論の内容はかなり変わりました。就任当初は1回の会議時間は1~1時間半くらいで、踏み込んだ議論がされないこともありましたが、最近は「経営に社外取締役の意見を活用しよう」という意識が高くなっていると感じています。
安田
私は翌2015年から当社の社外取締役を務めていますが、取締役会の前に事前ミーティングが必ず実施されますので、そうした機会も含めて多様な議論が交わされています。同時に、会社が社外取締役に求める機能も変わってきました。取締役会では、社長は最初に一通り発言した後は聞く側に回り、社外取締役の意見や現場からの声に耳を傾け、さらに社外と社内(現場)のダイアログを促しています。まずは参加者に多様な視点から意見を出してもらい、全員が目標を共有しながら自由に議論することで、取締役会の実効性を高めていこうという意図がそこに感じられます。
岩田
以前は、どうやって社外取締役の発言を促そうかとよく考えましたが、今はそんなに気を遣わなくても皆さんどんどん話してくれますね。社外の私が議長なので発言しやすいということもあるかと思います。
安田
当社では、取締役会の議長である岩田さんが執行には関与しない会長を務めています。それもあって、岩田さんは社長や執行部との対話を重視しており、対話の機会を多く持つことが取締役会の実効性をさらに高めていると思います。
岩田
ただ、取締役会の実効性評価の結果を見ると、2017年度までは改善が確認できましたが、2018年度の評価はほぼ横ばいでした。かつて「改善すべき」と考えたことが実現した結果だと思いますが、だとすれば、新たな改善テーマを設定して、ポジティブな意味でハードルを上げるべきだったかもしれません。
安田
3、4年前の取締役会は、コンプライアンス体制の強化や、収益回復に向けたコア事業の再構築、財務状況のチェックなど、議論すべきテーマが多かったですからね。こうした点が改善され、ある程度軌道に乗ってきているので、社外取締役同士の会話が当時より少し減っているのは事実です。ベネッセの未来に向けて、これまで以上に社外の視点からの意見を発信していきたいと思います。

情報提供やトレーニングは取締役会における議論の基盤

岩田
社外取締役への情報提供についても、先の事前ミーティングをはじめ充実してきました。事業内容を理解するために、さまざまなイベントや集まりにも継続的に参加するようにしています。
安田
私も各事業部門の現場を何度か訪問しましたが、やはり現場で生の話を聞くとボードルームでレクチャーを受けるよりもよくわかりますね。
岩田
最近一番印象的だったのは、介護事業の取り組みです。約300のホームから認知症ケアなどに関する好事例を集めてメソッドを作成しているのですが、事業の責任者はそれを業界にオープンにしていくと話しているんですね。それによって介護業界全体のレベルを高めると同時に、「自分たちはもう一歩先に行きます!」と言う。この決意に感心しました。
安田
介護事業に関わる社員は、自発的にテーマを決めて勉強会を開き、情報交換して知見をシェアするなどとても意欲的ですよね。そこには「世に役立つことをしよう!」という強い使命感を感じます。これは進研ゼミや学校などの教育事業についても同様で、自らの仕事に対する強い「思い」が現場から伝わってきます。私はベネッセの最大の強みは「人財力」だと以前から言っているのですが、人財力は単にスキルを持つ人を集めるだけでは発揮されない。人財力を支えるのはパッションであり、ベネッセには情熱を持つ多くの人財が集まっています。
岩田
社外役員への情報提供としては、取締役会の後に事業の内容や現状の課題などについて担当者からレクチャーを受ける「役員研究会」もありますね。取締役会で出た「ここがもう少し知りたい」とか、「こういうことができないか」といった要望を事務局がリスト化し、役員研究会で回答を用意してくれます。これは当社のコーポレート・ガバナンスの特徴の1つと言えます。
安田
重要なのはコーポレートガバナンス・コードに従って外形を整えることではないのですね。役員室で書類を読んでいるだけでは、会社の「におい」のようなものはわかりません。そういう意味で、上手に情報提供してくれていると思います。

取締役会のダイバーシティやサクセッション・プランの議論も進展

岩田
現在5名いる社外取締役は、それぞれ異なるバックグラウンドを持っており、バランスはとれていると思います。ただ、今後のことを考えると、新たな社外取締役を招聘することも必要ですので、「どんなバックグラウンド・経験を持つ人が良いか?」という観点で議論を始めています。
安田
当社の場合は社外取締役の専門性が多様なだけでなく、国際ビジネスの経験が豊富な方、あるいはデジタル分野に強い方など、成長戦略を踏まえた取締役構成にしています。また、今年は女性の取締役も選任されましたね。
岩田
海外ビジネスの経験者として言えば、例えば米国企業の元CEOのような方がいると、また全然違う雰囲気になるだろうと思います。欧米人は仕事や個人の生活に対する考え方が日本人と大きく異なる面もありますが、これから世界で戦っていくのならばそうした要素も少しずつ取り入れていく必要があるのでは、と思っています。
安田
今後の当社を考えた時という観点からはサクセッション・プランもあります。指名・報酬委員会では、社長の後継者や次世代の社内取締役の育成などについて議論が進められています。
岩田
安田さんがおっしゃったとおり、育成プログラムの検討や候補者のインタビューなども実施しています。今年からすべての社外取締役が指名・報酬委員会にメンバーとして出席するようになりましたので、今後は従来以上に議論が進むのではないでしょうか。
安田
指名・報酬委員会の内容を、社内役員もいる取締役会でどこまで報告するのか、少し難しい面はありますが、サクセッション・プランについて当社がかなり深いところまで考えているのは確かです。ベネッセユニバーシティなど次世代育成のプログラムも機能していますし。
岩田
一方で、私は「資金の使い方」について今後取締役会でもっと議論すべきだと考えています。当社の場合、進研ゼミの新規会員入会で4月に資金が入り、それを1年で使っていくので、従来は資金繰りはあまり問題にはなりませんでした。しかし、少子高齢化で会員数が減っていった時、例えば教育・介護に続く「第3の柱」や「デジタル化」のための資金をどう調達して、どう活用していくのかといった議論が求められます。
安田
持続的な成長のためには資産の入れ替えがあって当然だと思います。既存の強い事業はさらに強化する一方で、シナジーが出なくなってきた事業は入れ替え、ニーズの高い新分野に投資する、という形で成長を図る必要があります。「第3の柱」のためのM&Aなども検討されていますし、いずれ取締役会の議題に上がってくるでしょう。

大きな事業環境の変化のなかで長期視点での議論を

岩田
外部環境として人口減があって、進研ゼミ事業や学校事業の市場は縮小していきます。したがって、資本効率を高めることは今後ますます重要になりますし、新規事業の創出に向けた取り組みも不可欠です。ただし、それと同時に5年先、10年先を見据えて、「ベネッセという企業グループがどういう方向を目指すのか?」を議論することも重要だと私は考えています。
安田
同感です。教育市場が縮小し、大学が全入になった一方で、日本の教育レベルの遅れが指摘されています。日本の教育が大きな変革を求められるこれからの時代に、より長期的な視点で「自分たちは何をやるのか?」と考えることは、ある意味ベネッセにとって良いチャレンジだと思っています。当社の良いところは、教育にせよ介護にせよ、レゾンデートル(存在意義)が非常にはっきりしていることです。だから環境が変化しても、その新たな環境において「次は何をすべきか?」「何をやることが自分たちの次の使命なのか?」という発想が自然に出てくる。例えば、超高齢社会を迎えた今、介護と親和性のある分野でもっとできることはないか、と当社の人財は次の広がりを考えられます。
岩田
確かに、教育の充実や、高齢者が安心して暮らせる社会の構築というのは、いつの世にも存在し続ける社会課題ですからね。それらの間をつなぐ、リカレント教育のようなものも、今後は社会的なニーズが高まっていくでしょう。そうした人間社会のさまざまな課題やニーズに応えていくことが、ベネッセの新しいビジネスの創造につながるはずです。社外取締役として、今後もそのチャレンジを支援していきたいと思っています。

最終更新日:2019年09月11日